教会建築はよくわからない…という方でも「ゴシック様式」という言葉は聞いたことがある、という方は多いのではないでしょうか。学生の頃、世界史の教科書で見たという方や世界遺産「ケルン大聖堂」を思い浮かべる方もいるかもしれません。

高く伸びた尖塔、緻密な彫刻に彩られた外観。
「ゴシック様式」と呼ばれる建築様式は、12世紀後半にフランスで生まれ、その後ヨーロッパ各地へと広まったものですが、それは当時の人々の天上の世界への憧れの象徴であるとともに、その街の権力や経済力を表すものでもありました。

今回は、以前ご紹介した豪華絢爛なバロック様式とはまた異なる、ゴシック様式の魅力を4つの大聖堂とともにご紹介します。

1. ハプスブルク家の栄華と街の歴史を見守り続けた、ウィーンのシンボル「シュテファン大聖堂」

オーストリアの首都ウィーンの中心部、シュテファン広場に佇むこの大聖堂は、900年近い歴史を持つ街の象徴的な大聖堂です。また、モーツァルトの結婚式と葬儀の両方が行われた場所としても有名です。

圧倒的な存在感を放つ尖塔は高さ137メートル。

さらに約23万枚もの色鮮やかな瓦で描かれた見事なモザイク屋根にはオーストリアの名門王家 ハプスブルク家の象徴である「双頭の鷲」が描かれています。

とにかく大きいので、大聖堂からちょっとだけ離れて見ると分かりやすいです。

内部に足を踏み入れると、その空間の大きさに驚かされます。ゴシック様式は垂直性に重きを置いた様式ですが、内部からも上へ上へと伸びるような構造は建物の中とは思えないような壮大で素晴らしい空間を構成しています。

またこの大聖堂にはハプスブルク家の重要な君主たちの墓や記念碑が残されており、地下の「カタコンベ(地下墓地)」には、ハプスブルク家の人の内臓が入った金属製の壺や容器が安置されています。(有料のツアーで見学も可能です。)

その壮大なスケールと、垣間見える死生観から、ウィーンの歴史を肌で感じるような場所となっています。

2. プラハ城にそびえる、ボヘミア王国の誇り「聖ヴィート大聖堂」

聖ヴィート大聖堂はチェコの首都プラハにあるプラハ城内に、約600年もの歳月をかけて建設されました。

建物の重みを外側から支えるゴシック様式特有の構造「フライング・バットレス(飛梁)」、アーチを連続させて作られた高さのある天井、緻密な彫刻装飾の数々はまるで巨大な芸術作品のようです。

さらにこの大聖堂の見どころは、堂内を彩るステンドグラスの数々。中でも、チェコを代表するアール・ヌーヴォーの巨匠、アルフォンス・ミュシャが手がけた一枚は必見です。

また、私のお気に入りは約2トンの純銀が使われた荘厳な「聖ヤン・ネポムツキーの墓碑」。こちらはウィーンのシェーンブルン宮殿も手掛けたオーストリアの建築家エルラッハのデザインによるものです。

3.文豪も称賛したレースのような繊細なファサード「ストラスブール大聖堂」

フランス アルザス地方の古都、ストラスブール。「クリスマスの首都」とも呼ばれるこの街の旧市街にそびえるストラスブール大聖堂は、遠くから見ても圧巻の大きさです。142メートルの尖塔はかつて世界で最も高い建築物であったこともあり、中世に建てられた建物としては最高峰の高さを誇ります。

フランスの文豪ヴィクトル・ユーゴーが「巨大で繊細な驚異」と称賛したファサード(正面装飾)は、無数の彫刻が施され、まるで石のレース編みのよう。

内部の明かりはぐっと落とされ荘厳な雰囲気ですが、大きなステンドグラスが天井近くにいくつも並んでいます。

また、毎年クリスマスシーズンになると、大きなタペストリーがずらりと飾られる様子はストラスブールの冬の風物詩でもあります。

大きな空間を活かしたステンドグラスの数々は、それぞれが微妙に異なる採光をしていて、一層神秘的な空間を彩っています。

4.フランドル地方の至宝「聖バーフ大聖堂」

ベルギーの首都ブリュッセルから電車で1時間弱の場所にある古都ゲント。その街の中心に建つ聖バーフ大聖堂は、ロマネスク様式からゴシック様式への変遷の歴史をたどった重厚な建築物です。

この大聖堂は、ファン・エイク兄弟の『神秘の子羊』を所蔵していることでも有名ですが、力強い天井の骨組みに支えられた広大な堂内は高く大きな窓から自然光が入り、前述の3つの大聖堂よりもやや明るさを感じる造りになっています。

ゴシック様式は上へ上へと伸びる垂直性が特長と前述しましたが、空間に降り注ぐ光の芸術もまた、大きな魅力のひとつでもあります。

堂内の装飾は、やわらかな光に照らされていたり、暗く重い影を落としているものもあったり…荘厳さと繊細さを兼ね備えたそれらにはどれも心を奪われてしまいます。

天を目指して高く、より高くと造られてきたゴシック建築の大聖堂。

数百年の時をその身に刻んできた建物に足を踏み入れると、その街の歴史そのものに触れているかのような特別な感覚に浸ることができます。圧倒的なスケール感と繊細な装飾が織りなす空間美は、誰の心にも感動を与え、旅の経験をより趣深いものにしてくれるのだと思います。